TKA(人工膝関節全置換術)の手術のための作図方法を解説!
どうも、こんにちは。
若手整形外科医のよせやんです。
昨日行われたサッカーU-23日本代表のアジア選手権決勝の韓国戦を見たでしょうか?前半は完全に押されていて、得点も0−2となり、かなり厳しい戦いでしたが、この手倉森ジャパンには勝負強さと言うか、運を引き寄せる強さがありますね。
後半に入って3点を取っての逆転勝ち!!正直、応援を始めた当初は知っている選手は少なかったですが、優勝するまで見ていてこのチームが好きになりました。ぜひ、オリンピック本番でも頑張ってほしいですね。
さらに、今日は本田のACミランと長友のインテルとのミラノダービーがありますね。また、明日は睡眠不足ですな。スカパーとか契約してないので、いつもニコニコ生放送で見ています。ちなみに1月31日28:45(2月1日朝4:45)キックオフです!
さて、今日は久しぶりに一般整形外科のことも勉強しておきましょう。
というわけでTKA(人工膝関節全置換術)における作図方法についてまとめていきます。
Contents
はじめに
TKAの適応は、X線所見(関節裂隙の狭小化、関節面の破壊性変化)と膝関節痛、不安定性、変形、可動域制限、起立・歩行困難および日常生活障害などから決定します。
特に適応の第一は膝の強い痛みです。
臨床をしていると、膝の痛みに悩んでいる方は本当に多いです。
まずは、日常生活や大腿四頭筋トレーニングなどを指導したり、NSIADsなどの鎮痛薬を使用して経過をみますが、それでも痛みが取れない場合にはこのTKAを行う適応となります。
TKAを行う際には、手術の前にしっかりと術前計画を行うことが非常に大切です。
よせやん
それは単にインプラントの設置位置、サイズなどの情報を与えてくれるのみならず、術者が術前に手術をトレースし、手術全体のイメージ構築を行うという大きな意味を持ちます。
しかし、いざ自分が作図をしようと思い、ネットで作図の仕方を勉強しようと思っても、なかなかいい情報がありませんでした。
というわけで、この記事ではTKAの術前計画についてまとめていきます。
TKAの術前計画
術前に用意するX線写真は正面像(図1左)、側面像、膝蓋骨軸射像(図1右)に加え、Rosenberg像、全下肢立位正面像(図3)などが挙げられます。
Rosenberg像は、通常の非荷重の正面写真ではわかりにくい骨軟骨欠損の状態の把握に有用とされています。通常の正面写真でbone-to-bone(大腿骨と脛骨が接してる)でなくても、Rosenberg像や立位正面像ではしっかりとbone-to-boneが確認できることがあります。
bone-to-boneでなければ、TKAでなく骨切り術の適応になることもあるので、術前にしっかり確認しておかなくてはなりません。
よせやん
通常では機能軸は膝関節中心を通りますが、TKAをするような患者さんでは内外側のどちらかにズレています(ほとんどは内側です)。
また、CT検査は大腿骨・脛骨インプラントの回旋決定を術前計画として行ったり、骨棘を正確に把握するのに特に有用です(図4)。
図1 左:X線正面像 右:軸射像
図2:X線下肢全長正面像 機能軸(黄色線)が膝関節の内側を通っている=内側に負荷がかかっている状態
図3:CT axial像(上の黄色線がsurgical epicondylar axis:SEA、下の黄色線がposterior condylar axis:PCA)
作図のやり方
インプラント設置における目標は、
下肢の機能軸が膝関節の中心を通り、大腿骨・脛骨のインプラントの設置面が機能軸に対して直角になるようにすること
です。
ですので、まず機能軸が膝関節の中心を通るように、脛骨を切って移動させます(図4)。
図4は、インプラントがすでに乗ってしまっていて見にくく申し訳ないですが、まずはこの機能軸と骨軸を一致させることが重要です。
作図ソフトを使わない場合は、レントゲンフィルムに模写して同じ作業を行いましょう。
図4:脛骨を移動させて機能軸に一致させたところ
次に、各社が作成しているテンプレートによりインプラントのサイズを決定します。
このとき重要なのは、
まず膝関節側面像で前後径の適合性が良好なものを選択し(図5)、それが正面像でも過大とならないのを確認(図4)することです。
なぜなら、
TKAの適応となる膝は、しばしば屈曲拘縮を伴っているため、完全伸展が不能な状態で正面像が撮影され、実際より大きく描出されている可能性があるためです。
図5:側面像でインプラントのサイズを選択(前方適合性を確認し、内・外顆の変形の少ない側に合わせ、過大とならないサイズを選択する)
大腿骨のインプラントは関節面を正常時のレベルに近い高さまで再建することができるように、機能軸に合わせて設置します。
また、機能軸と大腿骨軸のなす角を確認しておくことも大切です。
この角度が大腿骨遠位端の骨切りを決定する最も重要な指標になります。一般的には6〜7°になることが多いです。
そして、後方の適合性も可動域の獲得には重要です。
深屈曲を達成するためにはインプラント後方部近位に屈曲制限の原因となるような骨が存在しないことが大切であるため、術中にどれくらい後方の骨棘切除が必要となるかCTで確認しておきます(図6)。
図6:CT axial像で切除すべき骨棘の位置を確認しておく
さらに、もう1つの重要な要素である、回旋アライメントにも注意を要します。
これもCTのaxial像にて、posterior condylar axis(PCA)を基準としてどれだけ回旋しているかを確認しておきます(図3)。
図3では、上の黄色線がsurgical epicondylar axis(SEA)で、下の黄色線がPCAです。
基本的には、PCAを基準として約3°外旋していれば間違いないでしょう。
最後に、脛骨の骨切り面を決定します。
脛骨近位は解剖学的には約2〜3°の内反を有しますが、脛骨インプラントの設置は正面写真において内外反がない、すなわち脛骨の機能軸(脛骨内外顆の中心と足関節の中心を結ぶ線)に対して直角の骨切りとなるように計画することが推奨されています。
骨質の比較的良好な部分をできるだけ残しつつ、関節面を正常時のレベルに近い高さまで再建できるように設置します。この際、内・外側の骨切り量がどの程度であるかを把握しておき、切除ラインから内・外側関節面までの距離を計測しておくと、骨切り御に角度の正確性と量を検討することができるようになります。
骨切りにより欠損部ができてしまう場合には、augumentationが必要になるなとか、これくらいならセメントで埋めてしまえるか、とか術前に計画を立てておくことができます。
また、矢状面での骨切り面は、インプラントの持つ後方傾斜の有無に応じて計画します。
一般的には、脛骨骨軸に対して直角か、必要に応じて3〜7°の後方傾斜をつけることが多いとされています。
術前に、X線側面像で脛骨の後方傾斜(脛骨骨軸に対して何度後方に傾いているか)も確認しておきましょう。
完成した作図の写真が図4および図5になります。
機能軸が膝関節の中心を通っており、アライメントもよさそうです。
この作図は、実際の手術で使用したインプラントと全く同じサイズだったので、自分なりには満足のいった作図です。
TKA作図のまとめ
作図方法をもう一度まとめておきましょう。
下肢の機能軸が膝関節の中心を通り、大腿骨・脛骨のインプラントの設置面が機能軸に対して直角になるようにすること
- 機能軸が膝関節中心を通るように脛骨を切って移動
- 大腿骨インプラントのサイズ決定
側面像で前後径の適合がよいもの
正面像でも過大とならないか確認 - 機能軸と大腿骨軸のなす角(骨切り角の指標)を計測
- 脛骨骨切りラインの決定
機能軸に垂直に
関節面が正常な高さに近くなるように - 脛骨インプラントの設置
骨切りラインから関節面までの骨切り量を計測 - CTで後方の骨棘を確認
- 大腿骨がPCAに対して何°外旋しているか計測
参考図書
TKAのバイブルのような本です。
今年は大学で人工関節の手術に入ることが多かったので、何回読んだか分かりません。
これ一冊読めば、TKAに関するおおよそのことは理解できるでしょう。
人工膝関節再置換術(revision TKA)、単顆片側型人工膝関節置換術(UKA)についても記載してあります。
おわりに
以上、今回はTKA(人工膝関節全置換術)における作図についてまとめました。
術前計画をいかに正確に行っても、現実的にはX線写真と患肢の状態による差、および手術操作としての髄内・髄外ガイドなどによって生じる誤差をなくすことは不可能です。
しかし、術前計画を十分に行うことで、術中に起こりうる事象につき、あらかじめ予測・準備をしておくことは必要不可欠なステップだと思います。
僕も若手のうちは、しっかりと作図をして手術に臨もうと思います。
よせやん
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