肩を脱臼した野球選手を監督が整復し拍手喝采|皆さんに知って頂きたい医療的側面
どうも、こんにちは。
若手整形外科医のよせやんです。
よせやん
僕は全然知らなかったのですが、2017年に甲子園常連校の選手がスライディングした際に左肩を脱臼してしまい、監督が現場で整復しすぐに試合に戻ったということがあったそうです。
今日たまたまそんなことがあったのを知り非常に驚いたので、時間が経ってはいますが少し考察してみたいと思います。
この件を通して多くの方に正しい知識が伝わり、同じようなことが繰り返されないこと、選手のことを第一に考えた日本のスポーツ界になっていってくれることを願います。
Contents
問題のシーン
その問題のシーンに関しては、こちらの動画を見てください。
高校野球で選手が走塁してスライディングした際に左肩の前方脱臼を受傷。
脱臼は外れたままだと本当に痛く、整復されると痛みは消える。
だからと言って監督が現場で整復していいものなのか。しかもTV中継されてる試合での出来事。
これで骨折してたらどう責任を取る?
— よせやん@目指せスポーツドクター (@sports_doctor93) August 3, 2019
これは調べてみると2017年の出来事のようです。
甲子園常連校の明徳義塾の選手が2塁盗塁を狙ってスライディングした際に左肩を脱臼してしまいます。
痛みが強くプレー不能となり、味方選手の肩を借りて一旦ベンチへ退きました。
そこで監督がまさかの行動に・・・
なんと肩を無理やり(医療者からするとこの表現が正しいと思います)整復し、そのまま選手を試合に戻したのです。
皆さんはこれを見てどう思いますか?
よせやん
世間一般の反応は
- 監督かっけえええw バタ@脱脂中(@ma_kawabata) – 08/02
- すげーな、監督。K パウエル(@JailShout) – 07/30
- 仕事人かよwwwこんちゃん(@konchan_JM37) – 07/30
- 馬淵さんすげぇgreed(@postman_shun) – 07/28
- 監督スゲーー!野球部あるあるつぶやくでー(@baseball_love_l) – 07/26
- 馬淵監督……。しゅんごい。牙(@penelope4127) – 07/26
- なぜかオススメに出てきた笑。馬渕は医者なんか。nobu.(@nobu18one) – 07/25
- 明徳監督すげぇ彩月まさき 原稿 4/11+合同(@hadurin) – 07/25
- えぇ~すごっIKU(@IKU76676123) – 07/25
- 今年のじゃないけど明徳の監督やばww医者いらずまでは言わんけど神の手すぎる、、miho#(@runtan0001) – 07/24
- 明徳の馬淵監督すごすぎて草きょーか⚾#28石垣飲み屋(期間限定)(@m0x0pyonko) – 07/24
- !!!!治せる監督凄い!!みりん//(@3myumyumyu) – 07/23
- いや監督凄すぎるだろwww紗々@サブ(@s4a0s0h1a) – 07/23
- こんなに回復するもんなんかな!これは馬淵マジック!すずきそうすけ(@sosuke1002) – 07/22
- 明徳の監督さんすごい!☮️山中山羊(@mamesuke5862) – 07/22
- 何回見ても面白い。さすが名門の監督だ。ざわちんいろいろ渋滞中(@zawachinpan) – 07/22
- 草生えた いるんだよな、骨はめるの上手い人r-aky@Division2(@aky47su) – 07/22
- こういうのって漫画とかだけかと思ったら本当にあるんだなw-kenta-(@BLAST_ASH) – 07/21
- 普通にすごい(笑)円安来ないかなぁ(@alldeleteforme) – 07/21
- 明徳マジック?ちるごん(@k7gon) – 07/21
- これはwwwゴッドハンドにも程があるwwwwwwしま(@shimachama22) – 07/21
- 魔法の手川崎カレンダー(憲法9条が守ってくれるってばよ)(@634_maruko) – 07/21
- ほんとこれ名医ベック@ノブ(@beck07231) – 07/20
- 脱臼直して即復帰すごいハイオク輸血バッグ犬のフレンズヲヂサン(@to_boesuruinu) – 07/20
- 監督さん凄い‼️yuko(@harurun95344051) – 07/18
- 直前まで痛いって言ってたのに突然の復活で信じられない&¥(@unknwn_jp) – 07/16
- 頼れる監督wmasa(@x_BASARA_x) – 04/11
- 僕はこれを繰り返して手術しました。あんまよくないよこれ。秘密屋@新人YouTuber(@himitsuya_game) – 04/08
- ゴッドハンドKirby#64@黒ウィズ魔道杯スタンバイ(@kb64kurowiz) – 04/07
- 選手の脱臼を一瞬で治す高校野球の監督。みてて、スッキリする。Youtube&ビジネス観察日記(@YoutubeGozen) – 04/06
- え、すげー馬淵監督!笑しんたろう(@shintaro_24) – 04/05
- 名将だ。(笑)健太郎(@terusuke19191) – 04/05
世間一般の反応はこんな感じです。
整復した監督を賞賛し、美談として語られています。
よせやん
医療者の声は
では、医療者の声はどうなのでしょうか・・・。
はめ方も全く愛護的ではなく、その後即プレー復帰
仮に脱臼だとしても論外ですね— おると🔨🐦整形外科医 (@Ortho_FL) August 3, 2019
な ん だ あ の 整 復
公衆の面前で変な整復方法やってるくらいだから常習犯じゃないですかね
下手したらあれでbony bankartを作られてユルユルの生徒もいたりして
緩ければ外れやすいけど、整復もしやすいですしね— DT.Haga🎤(ムラサメ研究所 No.4) (@mic_rophone_HG) August 3, 2019
こわ。
こんな角度じゃ関節唇やっちゃってねえかな。
ハマればOKて思うのはズブズブの素人だし素人が整復しちゃいけない。 https://t.co/ON8RdZNjkg— Shinta (@7Potatoman) August 3, 2019
また良くないニュース…
医療を馬鹿にしているのか!?脱臼疑って、整復出来るのは、医師か柔道整復師だけです。
私は、アスレティックトレーナーであり鍼灸マッサージ師ですので、脱臼整復しないです。応急処置して、病院へ!! https://t.co/5WLeWeY3Sa
— 宮本 直樹 (@TR_miyamoto) August 3, 2019
これが武勇伝になると
危険だと思います
マネする人出て来ますしというか無資格医療行為?
介入前後の評価が抜けていて
自己流の整復でいらぬ障害を作った可能性すらありますしかもそれは後遺症へ
選手のその後の人生まで守るのも
我々の役目 https://t.co/sOBOYNJ3CQ— N_クライミング専門医 (@now_med_4_yall) August 3, 2019
これは監督、整復してないですね。
選手が上肢を下垂させたときに自然に整復されたスチムソン法に近い感じですね。
監督がしたこと?ただの傷害です。 https://t.co/ccTB0db2Up
— Sho.🍻🇩🇪Zimmermann (@shoinstraubing) August 3, 2019
反復性ですかね?
見てて怖くてひやひや…
整復には骨折や関節唇損傷こリスクがあり、今後の選手生命にも大きく影響します。勝手に整復しちゃ絶対だめ!
というか法律てきにもだめ笑まず第1選択は病院で整形Dr.です!!
病院が遠すぎる、緊急性がある場合は柔整師による応急処置的整復です! https://t.co/m7Qb2LgOng— 栗原 渓 (@526_k) August 3, 2019
えっ、監督何やってんのよ。上腕骨頭骨折やバンカート病変で関節唇剥がれたら今後癖になるし。しかも法律上整復しちゃアカンし。 https://t.co/xRkPcC7iyR
— タケ ダイグウジ パフォーマンスコーチ (@takedaiguji) August 3, 2019
あり過ぎて載せきれないのでここら辺でやめておきます。
よせやん
体験談
あと、同じような体験を過去にされた方のコメントも載せておきます。
大学2年の夏、アメフトの合宿最後の練習試合で左肩脱臼して、合宿所近くの診療所で整復してもらい骨折したことを思い出した…。 https://t.co/zgDdynzjqQ
— 百八式リトル (@petittttt) August 3, 2019
ラグビーでは脱臼が比較的多く、昔は監督が肩をはめていた。その選手たちの大半は脱臼癖がつき、それ以降思うようにプレーができなくなっていた。何度も繰り返し寝てる間に外れる人、脱臼癖で消防や警察の夢を諦めた人など悲惨な末路を多く見た。 https://t.co/jqTpsuLBq3
— with T公方 (@TKwith2) August 3, 2019
これらの話は本当なのか?
そこら辺に関しても今から述べていきます。
よせやん
何が問題なのか?
やっと本題です。
この動画の何が問題なのかと言うと、大きく3つです。
- 資格のない人間が整復を行なっていること
- 整復の方法
- 適切な手順を踏んでいないこと
順番に見ていきましょう。
整復を行えるのは
基本的に骨折・脱臼の整復を行うことができるのは医師のみです。
ただし、骨折又は脱臼の場合に、医師の診療を受けるまで放置するときは生命又は身体に重大な危害を来す虞のある場合に柔道整復師がその業務の範囲内において患部を一応整復することができます。
これは医師法および柔道整復等営業法に規定されていることです。
つまり、医師でも柔道整復師でもない人間が整復を行うことは許されておらず、整復を行うことはむしろ傷害に当たる可能性があるのです。
整復の方法
次に、整復の方法が極めて乱雑であることです。
医師や柔道整復師があのような整復方法をとることはまずないでしょう。
脱臼が戻ればそれでいいじゃないか!と思われる方がいるかもしれませんが、そんな単純な話ではありません。
例えば初回脱臼の患者さんで本来ならば保存的に治療できたケースだと仮定しましょう。
しかし、無理やり強引に整復することにより関節唇靭帯複合体が骨片ごと関節窩からはがれる病変(骨性バンガート病変)や、上腕骨頭骨折などを合併することがあります。
そうなると、きちんと治療していれば手術しなくてよかったのに、手術でないと治療できなくなってしまう場合があるのです。
骨性バンガート病変は反復性脱臼の原因となり、その後の運動や場合によっては日常生活にまで支障をきたし手術での加療が必要になります。
実際に反復性脱臼で易脱臼性になると、夜普通に寝ているだけで肩が外れたりすることすらあります。
また、上腕骨頭骨折が生じると骨折した骨頭は脱臼した場所に残ってしまうため当然手術でないと治療できません。
僕は実際に整形外科医でない医師が整復を行なって、上腕骨頭骨折を生じ手術した症例を経験したことがあります。
よせやん
適切な手順を踏んでいない
そして、3つ目の問題は適切な手順を踏んでいないということ。
要は、整復することの了承を得ていないこともダメなんですね。
まあこの場合はそもそも整復すること自体がアウトなのですが・・・。
そもそも、僕たち整形外科医が肩関節脱臼の患者さんを診る時にどうするのか。
基本的にまず病院でレントゲンを撮って骨折の合併がないことを確認します。
整復した後にレントゲンで骨折が判明した場合、受傷時に骨折していたのか、整復操作により骨折したのか判断できないからです。医療者が自分の身を守るためにも必ずレントゲンを先に撮ります。
その後、整復に伴うリスク(骨折など)を説明した上で整復を行います。
きちんとしてる施設は同意書も書いてもらってると思います。
選手だってこういう可能性を知っていたら現場で整復しないで欲しいと思う人だっているかもしれません。
よせやん
今回の動画を見て僕が伝えたいこと
僕は別にこの整復を行なった監督を責めたくてこの記事を書いているわけではありません。実際、古い時代にはドクターが会場にいることも少なく、正しい医療知識を伝えてくれるトレーナーさえも現場におらず、また指導者や選手も医療リテラシーを持っていないため、現場で指導者が整復するということは少なからずあったようです。
ただ、今は時代が違います。
この動画を見た医療者の反応を見れば、これがいろんな意味で間違った行為であることがわかるでしょう。
今回の動画の場合、選手が監督を訴えるようなことはないのでしょうが、仮に骨折を合併しており両親などに訴えられたとしたら勝ち目は全くないでしょう。
ですから、指導者の方が自分の身を守る意味でもやめて欲しいというのが1点。
そして、何よりもこんな現状では選手が将来的に不幸になる可能性がかなり高いことを知ってもらいたいのです。
本来ならばきちんと治療すれば何の支障もなくスポーツ復帰できたであろう選手が、反復性脱臼に移行してしまい手術を受けなければいけなくなってしまったり、スポーツの道を断たれてしまう可能性があるのです。
確かに、その現場においては指導者は当然勝つために選手に試合に出て欲しいと思うでしょうし、選手も大事な試合であればあるほど何とかして試合に出たいと思うでしょう。
僕も本気でスポーツをずっとやってきているのでそんなことは百も承知です。
ただ、選手も熱くなっている時だからこそ、周りの方、特に一番近くにいる指導者の方には選手のことを第一に長い目で考えてあげて頂きたいのです。
よせやん
繰り返さないためにどうするべきなのか
では、同じことが起こらないようにするためにはどうすればいいのでしょうか。
まずは、スポーツ医療者はもちろんですが指導者や選手、一般の方にもこれが間違った行為であることを知って頂く必要があるでしょう。
そうでないと、最初に紹介したような反応になるのは理解できます。
ですから、僕たち医療者が正しい情報を伝える必要があると考えて、僕も今回ツイートしたり、こうやってブログを書いているわけです。
そして、もう一つはスポーツ医療体制を整えることです。
その現場にきちんと対応できるドクターがいて、その方が対応していたら何も問題にならないのですから。
ドクターが現場にいなかったり、どうするべきかを伝えることができるトレーナーや看護師などがいないことが問題だと思うのです。また、そういう人間は客観的な目で状況を見ることができることも大きいと思います。
おわりに
めちゃくちゃ記事が長くなってしまいましたが、
僕が考えているのはとにかく選手のことを第一に考える日本のスポーツ界になってほしいということです。
別にこの監督さんを責めたいわけでもないし、この出来事を掘り返したいわけではないのです。
ただ、この件を通して多くの方に正しい知識が伝わり、同じようなことが繰り返されないことを祈るばかりです。
よせやん
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