サッカーにおけるヘディングの脳への影響|サッカー選手は神経変性疾患による死亡率が高い?
どうも、こんにちは。
整形外科医のよせやんです。
よせやん
今日は、スポーツ整形外科の手術日でした。
やっぱりスポーツの手術は面白いなと思います。
個人というより、チームで手術を行うというのも自分に合っている気がします。
コロナの影響で手術が減っているのは悲しい限りですが・・・・
さて、本日は今ホットな話題を取り上げてみたいと思います。
2021年5月13日にJFAから育成年代でのヘディング習得のためのガイドラインが発表されました。
外部リンク:JFAから育成年代でのヘディング習得のためのガイドラインが発表
というわけで、このガイドラインを紹介しようと思うのですが、その前にサッカーにおけるヘディングと脳との関係についてお話ししようと思います。
今回は、まずこのガイドラインが策定されるきっかけにもなったサッカー選手と神経変性疾患で死亡するリスクとの関係についての論文を紹介していきます。
よせやん
Contents
スポーツと健康の関係
コンタクトスポーツへの参加が、認知症を含む慢性疾患の予防や死亡率の低下など、身体活動がもたらす健康上のメリットは確立されています。また、トップレベルのアスリートは、一般の人に比べて、死亡率や心血管疾患のリスクが低いなど、生涯にわたる健康上のメリットがあることが研究で示されています。
このように、適度なスポーツが健康にとってメリットがあることは周知の事実でしょう。
よせやん
ただし、過度なスポーツは時に健康を害することがあるのもまた事実です。
実際に、プロレベルでやっている人は20〜30代でよく使う部位がボロボロになっていることが少なくありません。
また、サッカーをはじめとしたコンタクトスポーツは、当然頭部外傷が生じやすいため、アルツハイマー病、筋萎縮性側索硬化症、慢性外傷性脳症(CTE)などの神経変性疾患のリスクが懸念されています。
アメリカンフットボールやサッカーなど、さまざまなコンタクトスポーツに参加した元プロ選手に慢性脳損傷の病理学的変化が認められたこともこうした懸念につながっているのです。
New England Journal of Medicine
というわけで、今回の論文を紹介していきます。
この論文は、2019年にNew England Journal of Medicineに掲載されたものです。
New England Journal of Medicineは、200年以上にわたる歴史を有し、世界でもっとも権威ある週刊総合医学雑誌の一つです。
医学界のトップジャーナルとして、また情報提供の優れた媒体として国内外の医師・研究者から高い評価を受けています。
雑誌を評価する一つの指標であるImpact Factorは74.699(2019年)と圧倒的です。
必ずしも雑誌で論文の質が決まるわけではありませんが、そこの掲載される論文はそれだけ研究の価値が高く、信頼に値するものである可能性が高いと言えるでしょう。
よせやん
この研究はどういう研究か?
最初に、この研究がどのような研究なのか確認しておきましょう。
この研究では、スコットランドの元プロサッカー選手である男性7,676名(元サッカー選手群)と性別、年齢、社会的困窮度などをマッチさせた一般の方23,028名の対照者(コントロール群)の様々な疾患による死亡率を後ろ向きに比較しています。
死因は死亡証明書から特定し、認知症の治療のために処方された薬剤に関するデータまで入手しています。
後ろ向き研究ではありますが、7,676名というビッグデータなので真実を反映している可能性の高い研究と言えるでしょう。
よせやん
サッカーと内科的疾患による死亡率
というわけで、結果を見ていきましょう。
まず、今回のお話ししたいところとは直接関係ありませんが、サッカーと内科的疾患による死亡率の関係についてです。
今までに報告されている報告と同様に、元サッカー選手群の全死亡率(Any cause)はコントロール群と比べて0.87倍と低い結果でした。
40歳から調査を開始してから中央値で18.0年の追跡期間中に、1,180人の元サッカー選手群(15.4%)と3,807人のコントロール群(16.5%)が死亡していました。
また、特定の疾患で有意差を認めたものは、虚血性心疾患(Ischemic heart disease)、肺がん(Lung cancer)による死亡率で、いずれにおいても元サッカー選手の方が低い結果でした。
しかしながら、上図を見てもらうとわかりますが、気になるのは一番最後のところですね。
神経変性疾患(Neurodegenerative disease)による死亡率は、元サッカー選手の方が高くなっているのです・・・。
よせやん
サッカーと神経変性疾患による死亡率
というわけで、神経変性疾患のみを取り上げてより詳細に見てみましょう。
全神経変性疾患による死亡率は、元サッカー選手ではコントロール群と比較して、3.53倍と高いという結果でした。
ここの部分が、JFAのヘディングのガイドラインでも述べられているところですね。
よせやん
この研究の神経変性疾患には、明確な記載のない認知症、アルツハイマー病、非アルツハイマー型認知症、運動ニューロン疾患、パーキンソン病が含まれていますが、このいずれによる死亡率においても元サッカー選手がコントロール群と比較してリスクが高いという結果だったのです。
しかし、死亡診断書が間違っている可能性もあるとのことで、この研究ではアルツハイマー病やそれに関連する認知症に一般的に使用される薬の処方を受けた人の割合を調査しているのですね。
その結果、元サッカー選手群はコントロール群に比べて認知症関連薬の処方頻度が高いことが判明し、死亡診断書の比較から得られた知見を裏付けています。
ここまでやられると結果に納得せざるを得ないですね。
よせやん
この論文のまとめ
長くなってきましたので、この論文を簡潔にまとめてしまいましょう。
- 元サッカー選手7,676名とコントロール群の死亡率を調査
- 全死亡率は元サッカー選手群が低い
- 全神経変性疾患による死亡率は、元サッカー選手群で3.53倍高い
- 認知症関連薬の処方頻度は元サッカー選手で高い
ということになります。
つまり、この研究は元サッカー選手における調査というだけで、直接的にヘディングと神経変性疾患による死亡率を結びつけるものではありません。
しかしながら、普通に考えたらヘディングよる脳へのダメージの蓄積が関与している可能性が高いでしょう。
よせやん
また、元サッカー選手はレクリエーションレベルでサッカーをしている人と比べて、当然プレー時間も多く、その強度も高いのは間違いありませんので、この結果がレクリエーションレベルでサッカーをしている人にも同様に当てはまるとは限りません。
そこら辺はこの研究のLimitationと言えるでしょう。
今後、前向き研究の結果が出てくると、さらに明らかなことがわかってくると思います。
次回は、実際にサッカーのヘディングが脳に与える影響について考えてみたいと思います。
冒頭で紹介したJFAの育成年代でのヘディング習得のためのガイドラインについては最後に紹介しますね。
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