コンパートメント症候群とは|治療では減張切開とVAC療法を知っておこう
どうも、こんにちは。
若手整形外科医のよせやんです。
中部日本整形外科災害外科学会の演題募集が明日の正午までなので、2日前からデータ集め、論文集め、抄録作成、スライド作成に時間を割いています。 今週中に論文完成まで終わらせたいところです。
学会は抄録の登録と発表までにだいぶ期間がありますが、抄録登録の際にスライドまで作成せずに発表の前にスライドを作成しようとすると、再度論文から読み直さないといけなくなりますからね。 さらに学会後に論文を書くとなると、また再度論文を読み直して思い出す必要がありますからね。遅くとも発表のときまでに論文作成まで終わらせておくクセはつけたいものです。
ちょっと休憩で今回はコンパートメント症候群に関してまとめます。
コンパートメント症候群は骨折や筋損傷などの外傷が契機となって生じることがある非常に怖い疾患です。つまりは、どんな人にも起こることがあるのです。
また、医療関係者は自分が診た患者さんがコンパートメント症候群にならないかしっかりとチェックすることが大切です。
コンパートメント症候群とはどういうものなのか、原因、症状、診断、治療について、特に緊急に行う必要がある減張切開とその後の管理としてVAC療法を勉強しておきましょう。
Contents
コンパートメント症候群とは
コンパートメント内の高圧状態が長時間続くと、コンパートメント内の筋壊死や神経障害の原因となり、Volkmann拘縮として知られる不可逆性の阻血性拘縮を引き起こします。
急性期と慢性期があり、急性型の場合には筋や神経が壊死に陥り重大な後遺症を残すことがあります。
コンパートメント症候群のMRI所見(T2強調像)
(下腿後方の筋肉に浮腫上の変化が見られます。)
原因
原因としては主には骨折や筋損傷などの外傷ですが、ギプス固定や載石位の手術で起こることもあります。
(Leff RG et al. J Urol 1979)
症状
理学所見としては6Pを覚えておきましょう。
- Pain(疼痛)
- Paresthesia(感覚異常)
- Pallor(蒼白)
- Paralysis(麻痺)
- Pulselessness(脈拍消失)
- Poikilothermia(低体温)
この中でも特に、Pain(疼痛)が最も信頼できる徴候であり、罹患した部位の筋を他動的に伸展させるとさらに激痛を訴えることが特徴的です。
その他のPの症状は疼痛に遅れて出現すると言われています。 (Tzioupis P et al. J Orthop Trauma 2009)診断・治療
診断はA−ラインキットを使用してコンパートメントの内圧を測定します。
使用するのは通常のA−ラインと一緒です。違うのは、針を動脈に針入するのではなく、コンパートメント内圧を図りたい筋肉に針入することだけです。
コンパートメント症候群は早期発見・早期治療が何より重要
であるので、A−ラインキットは一人で作成できるようになっておきましょう。
以下にA−ラインキットの作り方を簡単に示します。
コンパートメント内圧は正常では0〜10mmHgであり、近年では30mmHgを超えたら減張切開術(筋膜切開)の適応があると言われています。(内藤正俊. 最新整形外科学体系 2009)
上記でも述べた通り、コンパートメント症候群は急性型の場合には筋や神経が壊死に陥り重大な後遺症を残すことがあり、特に発見が遅れた症例の73%に後遺症が残ったことが報告されており、早期発見が重要だと言えるでしょう。 (Simms MS et al. Postgrad Med J 2005)
(写真:筋膜切開術後)
減張切開が必要だと判断したら、内圧が上昇しているコンパートメントに対し、筋膜切開を行います。
減張切開の方法については下の記事を参考にして下さい。
筋膜切開によってコンパートメント内は減圧されますが、上図のように筋膜創縁は広く離開するため、最終的な閉創の際に植皮を要することがあります。
しかし、縫合による閉鎖を行った場合と比べ、機能的にも整容的にも劣る結果になります。
このようなコンパートメント症候群における筋膜切開創の管理において、近年では陰圧閉鎖(Vacuum Assisted Closure: VAC)療法を適用した報告が散見されるようになりました。
VAC療法
VAC療法の効果としては以下のようなものが知られています。
- 創部の引き寄せ(収縮)
- 創部環境の保護、湿潤環境の維持
- 浸出液、壊死組織の除去
- 肉芽組織の形成促進、血流増加、細胞に対する物理的刺激
ただし、我が国では以下のものに適応が限られているので注意が必要です。
- 外傷性裂創(一時閉鎖が不可能のもの)
- 外科手術後離開創・解放創
- 四肢切断端開放創
- デブリーデマン後皮膚欠損創
VAC療法とwet-to-dry dressingなどの非VAC療法群を比較すると 、
VAC療法群で有意に閉創までの期間が短縮し、植皮を要する頻度が低下した。
(Yang CC, et al. J Surg Orthop Adv 2007)
(Zannis J, et al. Ann Plast Surg 2009)
と報告されています。
(写真:切開創の閉創後)
またVAC療法の場合、ドレッシング交換頻度を大幅に減少させることができるため、感染リスクの面からも有益であると考えられます。
筋膜切開後の治療法としてはShoelace法による直接的な創縁の牽引は広く離開した創の狭小化に有用であり、VAC療法に併用することでより早期に創の縫合が行える可能性もあるかと思います。
おわりに
以上、今回はコンパートメント症候群とはどういうものなのか、その原因、症状、診断、治療についてまとめました。
細かいところはいいとして、僕がこの記事で皆さんに伝えたいことは、
コンパート症候群は早期に診断し治療を開始することが重要
だということです。
さらには、自分でA−ラインキットを作成し圧を測定できるようになっておくとともに、場合によっては減張切開が必要になること、その後の管理にはVAC療法が有用であるということを知っておくとよいでしょう。
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Comment
息子がアメフトの試合で太股をタックルされコンパートメント症候群で手術しました。25センチほど切開しました。
術後3ヶ月たちましたがまだ走ると痛みがあるといいます。
リハビリなどなく来てしまいましたが、どのような対応策があるのでしょうか?
中村慶子様
コメントありがとうございます。
息子様がコンパートメント症候群で手術を受けられたのですね。
走ると痛みがある部位は減張切開した部位なのでしょうか。
直接診察してみないとわからないことが多いので、最善なのは減張切開して頂いた病院で相談してみることかと思います。