スポーツにおける高地対策|南アフリカW杯での対策の実際
どうも、こんにちは。
若手整形外科医のよせやんです。
さて、今日はスポーツにおける高知対策についてお話しします。
サッカーをはじめ、スポーツでは技術・戦術のみならず、環境やそれに付随する体力的要素がゲーム内容や結果を大きく作用しますが、試合地の高度もフィジカルコンディションに大きな影響を与えます。
3,000m前後の高地でも試合が行われるワールドカップ南米予選で、ブラジルやアルゼンチンのような強豪国が実力差の明らかな地元国に毎回のように苦戦していることは、高地における試合の難しさを物語っています。
高地での試合で実力を出し切るためには、しっかりとした準備が必要です。
よせやん
今回は南アフリカワールドカップでどんな高地対策が行われたのかを紹介しながら、スポーツにおける高地対策に関してまとめます。
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高地の影響
これは、低酸素・低気圧環境によって引き起こされ、この高さでは通常の生活でも高地特有の症状、すなわち頭痛・睡眠障害・脱水傾向・消化器症状(食欲低下・吐き気・下痢など)が出現する可能性があります。
これより低くても、トレーニングやゲームの負荷が加われば、プレー中の息苦しさはもちろん、高山病の症状が出現する可能性があります。また、1,500m以下の準高地であっても、仮にトレーニングやゲーム中に明らかな症状が出現しなかったとしても、平地よりも鉄分が消費されるため貧血傾向になりやすく、また疲労の回復が遅れるといわれています。
サッカーにおける高地の影響
サッカーを例にすると、近年の日本サッカー界の高地・準高地での大会としては、95年U-17世界大会(エクアドル:1,800m)、U-19アジア予選や2005年ワールドカップ予選でのイラン戦(1,300m)、2003年と2007年女子ワールドカップ予選プレーオフ(メキシコ:2,200〜2,600m)、アジアカップ予選イエメン戦(2,300m)、そして南アフリカワールドカップ本大会(1,300〜1,500m)などが挙げられます。
その大会の際の、日本代表選手の状況を見てみましょう。
- 高度1,300mのイランでは、到着日のトレーニングで選手はある程度の息苦しさを訴えたものの、到着翌日の試合ではプレーへの大きな支障を訴えた者はいませんでした。
- 高度2,300mのイエメンでは、明らかな高山病症状を呈する者はみられなかったものの、安静時にも軽度の頭痛を訴える選手がみられました。トレーニングでは、多くの選手が苦しさを感じ、到着3日後のゲームでも通常よりかなり苦しかったと話す選手が多くいました。
- 高度2,800mのエクアドルでは、大会5ヶ月前のシミュレーション合宿時に、高山病症状のため全く練習に参加できなかった選手が数名出たほか、半数以上の選手が何からの高山病症状を呈しました。
高地対策の実際
以下、下の参考図書の、清水邦明先生、杉田正明先生、山藤賢先生の南アフリカワールドカップでの体験記より抜粋して、南アフリカワールドカップで行われた高地対策の実際を紹介します。
まず、大会数ヶ月前から数回血液検査を行い、選手の栄養状態や貧血、ならびに潜在性の貧血のチェックが行いました。特に、総タンパク、ヘモグロビン、血清鉄、貯蔵鉄(フェリチン)を指標として重視しました。
この結果をもとに、高地環境での長期間プレーに問題がある可能性があると判断された選手には、事前に栄養指導や鉄ならびにプロテインサプリメントの摂取を促しました。また、大会前に国立スポーツ科学センター(JISS)で低酸素環境適応テストを行い、選手の適応性についてチェック・把握しました。
高地順化対策としては、まず出発前に全選手に低酸素吸入器を配り、5日間(計7回)一定時間吸入させて、高地に移動した際に少しでも早く順化できるように準備しました。事前合宿を高度1,800mのスイスで約10日間行いました。この高度は、本大会の試合会場の高度(1,200〜1,500m)、高所トレーニング効果、疲労度などを総合的に検討して選定されました。合宿では、やはり最初の2〜3日のトレーニング強度を抑えめにすることをメディカルサイドから進言しました。
また、起床時に尿検査(比重、タンパク・潜血の有無、pH、クレアチニン排泄量など)を行って、個々の選手の疲労度を推定するとともに、疲労や睡眠に関する質問紙や酸素飽和度、脈拍計測も用いて総合的なコンディション把握に努めました。合宿中には、疲労回復を促す目的で高濃度酸素(平地で30%濃度出力)吸入器を選手に配り、積極的に吸入させました。
南アフリカ入り後のベースキャンプは、疲労の回復を優先して平地が選定されました。このため事前合宿での高地順化ならびに高地トレーニング効果を持続させるために、再び計画的に低酸素吸入器を使用しました。
また、グループリーグの1、3戦目が準高地(1,300〜1,500m)でのゲームであったため、試合後の疲労回復が大きなポイントでした。尿検査を中心とするコンディションチェックを継続して行い、選手個々の疲労度を把握するとともに、高酸素吸入器を頻用しました。
まとめます。
- 事前にコンディションチェックとそれに基づく鉄剤などの処方
- 可能ならば、低酸素室や低酸素吸入器使用による事前順化
- 早めの現地入り、現地入り後数日は軽めのトレーニング
- 可能ならば、高酸素吸入器による疲労回復
- 長期間におよぶ大会では、比較的簡便に結果を把握できる尿検査も有用
参考図書
まとめ
今回は、高地(準高地)対策の実際をお話ししました。
高地でスポーツをしなければいけない機会はなかなかないかもしれませんが、そういうシチュエーションになったときに、高地対策を知っているのと知らないのとでは大きな違いになります。いつかそういう機会があったときのために、頭に入れておきましょう。
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