前腕背側の伸筋支帯の区画(コンパートメント)とドケルバン病
どうも、こんにちは。
若手整形外科医のよせやんです。
今日は手の外科の領域の記事です。
前腕背側の伸筋支帯とそれにより作られる区画を知っていますか?
よせやん
整形外科領域に携わる方なら当然知っていると思いますが、知らない方のために前腕背側の伸筋支帯とそれにより作られる6つの区画(compartment:コンパートメント)についてまとめておきます。
また、それと関連のあるドケルバン病についても軽く触れます。
Contents
手背の腱鞘
前腕背側の伸筋腱は伸筋支帯(extensor retinaculum)により作られる6つの区画(compartment:コンパートメント)を通って前腕から手背に至ります(図1、2)。
図1:伸筋支帯とそれにより作られる6つの区画(axial)
図2:伸筋支帯とそれにより作られる6つの区画(coronal)
第1区画:長母指外転筋、短母指伸筋腱
第2区画:長・短橈側手根伸筋腱
第3区画:長母指伸筋腱
第4区画:指伸筋腱、示指伸筋腱
第5区画:小指伸筋腱
第6区画:尺側手根伸筋腱
それぞれの区画を通る腱または腱群は同一の腱鞘により包まれています。
すなわち、最も橈側にある第1区画を通る長母指外転筋および短母指伸筋腱は通常同一の腱鞘に包まれ、第2区画の長および短橈側手根伸筋腱も同一の腱鞘によって包まれます。
第3区画の長母指伸筋腱は固有の腱鞘を有しています。
第4区画の指伸筋腱および示指伸筋腱の5本の腱は同一の腱鞘によって包まれ、第5区画の小指伸筋腱および第6区画の尺側手根伸筋腱はそれぞれ固有の腱鞘に包まれます。
手背の腱鞘の解剖
これらの腱鞘は伸筋支帯より1〜1.5cm中枢より始まり、伸筋支帯の下にあるそれぞれの区画と通って手背に至ります。
手背での腱鞘の多くは中手骨骨底で終わりますが、ときにはさらに末梢にまで伸びて中手骨骨頭の近くにまで至ることがあります。
手背の筋腱は滑液鞘のみで線維鞘は有していません。
しかし、手背遠位部には通常腱鞘は存在せず、それぞれの指へ向かう伸筋腱は手背遠位部および指背では腱傍織(paratenon:パラテノン)と筋膜に覆われています。
手背の腱鞘はそれぞれ独立していて腱鞘の相互の交通は一般には認められませんが、長母指伸筋腱の腱鞘はリスター結節の末梢で長および短橈側手根伸筋腱の背側を斜めに横切る際に互いに交通しています。
手背の腱鞘が2つ以上の腱を包んでいるときには、それらの腱が手背で別々の方向に分かれる際には腱鞘も腱とともに多少とも分離します。
手背の腱鞘の中で最も大きいものは、第4区画を通り総指伸筋腱および示指伸筋腱を包む腱鞘です。
最も長い腱鞘は、長母指伸筋腱あるいは小指伸筋腱を包む腱鞘で約6〜7cmの長さを有します。
長および短橈側手根伸筋腱ならびに尺側手根伸筋腱はそれぞれ、第2、第3ならびに第5中手骨骨底に停止しますが、その停止部には腱と中手骨との間に滑液包(bursa)が存在します。
滑液包は独立していて、腱鞘とは交通していません。
ドケルバン病
臨床において、手背腱鞘の疾患として最も問題となることが多いのは、ドケルバン病(de Quervain’s disease)です。
この疾患の主な原因としては、繰り返される腱の運動により腱と橈骨茎状突起との摩擦により起こるもの、あるいは関節リウマチによるものです。
この疾患に対する外科的治療法として、肥厚した腱鞘の切開術がしばしば用いられますが、その際、解剖学的に特に留意すべきは、長母指外転筋と短母指伸筋腱は常に同一の腱鞘内に包まれているとは限らず、ときには別々の腱鞘に包まれていることです。
したがって、そのような場合には単に1個の腱鞘を切開するだけでは不十分です。
長母指外転筋は2〜3本に分かれている場合が多く、そのうちの1本を短母指伸筋と誤ることもあります。
腱鞘切開術を施行した後でもドケルバン病の病状が続く場合には、短母指伸筋腱腱鞘が切開されていないことが疑われます。
参考図書
おわりに
以上、今回は前腕背側の伸筋支帯とそれにより作られる6つの区画(コンパートメント)について、また、これと臨床的にリンクするドケルバン病についてまとめました。
整形外科領域の基本的事項として、覚えておきましょう。
よせやん
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