熱中症の原因・リスクについての疫学データ|スポーツ選手、高齢者で何が違う?
どうも、こんにちは。
若手整形外科医のよせやんです。
今年のJOSKAS(日本関節鏡・膝・スポーツ整形外科学会)の演題登録の締め切りである1月28日が迫ってますね。締め切りが1週間延長になるかと思いきや、連絡ありません。こんなギリギリになろうとは思っていませんでしたが、今必死にやってます。
さて、昨日はスポーツにおける暑熱対策について勉強しました。
今回は、その中でも特に熱中症について、スポーツの側面からだけではなく、熱中症の死亡数や死亡率・リスク因子・気候条件についての一般的な詳しいデータをまとめています。
スポーツ選手などの若年者や高齢者によって熱中症となる背景は全然違ってきます。特に高齢者の熱中症は死亡率が高く、注意が必要でしょう。
熱中症を予防するための運動・日常生活における行動指針についても併せて確認しましょう。
Contents
熱中症による死亡
2013年に日本全国における、熱中症と診断された患者の入院数は35,571人、うち死亡数は550人で全体の0.13%でした。
このうち、65歳以上が474人(死亡の86%)を占めました。(三宅康史.熱中症最新事情:メディカル朝日.2014)
ちなみに2015年は熱中症による死亡者数は968人となっており、65歳以上が781人と全体の80.7%となっています。(熱中症による死亡数 人口動態統計(確定数)厚生労働省)
これを見ると、いかに高齢がリスクになるかということがわかるかと思います。
よせやん
今までの年のデータについては下記リンクから見れます。
外部リンク:熱中症による死亡数 人口動態統計(確定数) 厚生労働省
熱中症のリスク因子
熱中症の発症時期は、梅雨明け後7月中旬から8月上旬にかけてピークを迎え、発症時刻は12時および15時前後の日中が最も多いとされています。
性別は男性に多く、年齢・発生状況別にみると、若年男性はスポーツ、中壮年男性は労働による発生頻度が高くなっています。重症度を検討した疫学調査でも、救急搬送された患者のⅢ度に関連する独立危険因子の1つに、男性であることが報告されています。( 鶴田良介ら.日救急医会誌.2014 )
スポーツおよび労働による労作性熱中症は、屋外での発症頻度が高く重症例は少ないですが、陸上競技などグラウンドでのスポーツは重症率が高い傾向にあります。
米国の高校の運動選手を対象とした疫学調査では、約3割の熱中症は2時間を超える練習で発症し、さらに、その3分の1は医療従事者が発症現場に不在のときであったと報告されています。( Kerr ZY, et al. Am J Prev Med. 2013 )
長時間の連続した練習は避け、指導者が適切に監督する必要があるでしょう。
よせやん
労働による労作性熱中症は、農林・土木・製造業などの肉体労働で発症頻度が高く、男性・若年労働者・短い雇用期間が危険因子と報告されています。( Fortune MK, et al. Can J Public Health. 2013 )
また、高温多湿な環境、飲水の機会が少ないと重症化しやすいとされています。
高齢者では、男女ともに日常生活の中で起こる非労作性熱中症が多く、屋内での発症頻度が増加しています。また、重症例が多いことも特徴です。
Heatstroke STUDY 2010および2012の熱中症患者3,921例を対象とした疫学研究では、高齢・屋内発症・非労作性熱中症が死亡に対する独立危険因子であったと報告されています。
労作性熱中症は健康な人が短時間で発症するため、診断も比較的容易で、治療への反応もよく重症例は多くありません。一方、非労作性熱中症は日常生活の中で徐々に進行し、周囲の人に気付かれにくく対応が遅れてしまう危険性があります。また、低栄養・脱水・持病の悪化・感染症など複合的な病態を呈します。
特に、屋内で発症する非労作性熱中症は、高齢女性・独居に多く、精神疾患・高血圧・糖尿病・認知症などの基礎疾患を有する場合は重症化しやすく注意が必要です。
よせやん
日本では、スポーツおよび労働による労作性熱中症は減少傾向にありますが、温暖化および高齢化・核家族化といった社会背景から、高齢者の日常生活における非労作性熱中症は増加傾向にあります。
熱中症に影響する気候条件
熱中症とは、体内での熱の産出と熱の放散のバランスが崩れて、体温が著しく上昇した状態ですが、体への熱の出入りに関係する気象条件としては、気温・湿度・風速・放射(輻射)熱(太陽からの日射・地表面での反射・建物からの輻射)が挙げられます。
- 気温が高い
- 湿度が高い
- 風が弱い
- 日射・輻射が強い
熱中症に最も寄与する気象要素は気温であり、高温に伴う死亡率の増加、入院患者数の増加が数多く報告されています。ただし、夏期の湿度の高い日本では、気温だけでなく湿度も熱中症の増加に大きく関係し、日射の影響も考える必要があります。
そのため、日本では熱中症予防のための指標として、気温、湿度、風、日射・輻射の気象条件を組み合わせた指標として、暑さ指数(Wet Bulb Globe Temperature:WBGT)の使用が推奨されています。( Yaglou CP, et al. AMA Archs Ind Health. 1957 )
運動・日常生活における行動指針
暑さ指数に対応する行動指針としては、日本体育協会による「熱中症予防運動指針(図1)」、日本生気象学会による「日常生活における熱中症予防指針(図2)」があり、運動時および日常生活における行動指針などが解説されています。
一度ご覧頂き、スポーツや日常生活を送る上での参考にして頂けたら幸いです。
よせやん
これらには、暑さ指数に対応する乾球温度(TVなどで報道される気温)との対応表が記載されています(図1参照)。
図1:日本体育協会 熱中症予防運動指針より引用
図2:日本生気象学会 日常生活における熱中症予防指針より引用
熱中症の発生については、同じ気温でも湿度が高いほど危険度は高く、また、暑熱順化が十分でない時期には、より低い温度で熱中症発生します。
おわりに
以上、今回は熱中症の疫学データについてまとめてみました。
疫学データも意外に勉強してみると面白いものですね。
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