半月板損傷に対するフィブリンクロットとPRPの効果

どうも、こんにちは。
整形外科医のよせやんです。
よせやん
今日はものすごく眠たい1日でした。
決して仕事内容が眠たかったわけではなく、純粋に睡眠不足です。
自分よりも優先したいと思わせる赤ちゃんの魅力はすごいですね。
今日は少しでも早く寝て回復したいと思います。
さて、今回は半月板に関わるシグナル伝達についてお話ししようと思います。
物理学的および生理学的なシグナル伝達は、足場材に動員された宿主の細胞や、移植された外因性の細胞を半月板細胞に分化させ、適切な細胞外器質の産生を誘導し、組織再生を促すことになります。
これらを深く知ることで半月板に対する知見が深まりますし、基礎研究の側面を知っておくことも悪くないと思います。
今回は半月板損傷に対するフィブリンクロットとPRPの効果についてお話しします。
よせやん
Contents
はじめに
前回、半月板に関わるシグナル伝達として成長因子を紹介しました。
前回の内容をまとめると、成長因子には、半月板に対して細胞遊走、増殖、および細胞外器質産生の改善、細胞分化を促進させる効果があります。
細かく見ていくと、以下のような作用があるのでした。
成長因子 | 細胞増殖 | コラーゲン合成 | プロテオグリカン合成 | その他の効果 |
FGF-2 | ↑↑↑ | ↑ | ↑ | ー |
TGF-β1、β3 | → | ↑↑ | ↑↑ | 組織収縮 |
EGF | ↑↑ | → | → | |
BMP-2、7 | → | ↑ | ↑↑ | ー |
IGF-1 | → | ↑ | ↑ | 遊走 |
PDGF-AB | ↑↑ | ↑ | ↑ | 遊走、組織収縮 |
CTGF | ↑ | ↑↑↑ | ↑ | 遊走 |
そして、現在、半月板縫合の際に臨床で広く使われているフィブリンクロットや臨床応用が期待されているPRPにはこれらのシグナルに影響する成長因子が多く含まれているわけです。
というわけで、この記事では、実際にフィブリンクロットとPRPが半月板損傷に対してどのような効果があるのか紹介しようと思います。
よせやん
フィブリンクロット
フィブリンクロットは、出血に反応して産生されるタンパク質で、血液凝固に重要な役割を果たします。
術中に容易に準備でき、汎用性が高いことから、半月板損傷の治癒を促進する生物学的な方法として、現在最も行われている方法です。
フィブリンクロットには多くの成長因子が含まれ、半月板損傷部への細胞誘導および細胞増殖を促進することや、損傷部の露出されたコラーゲンに付着して、繊維性結合組織の増殖を誘導し、線維軟骨組織への分化を促進することが報告されています。
動物モデルを用いた基礎研究では、癒合部の線維性結合組織が12〜24週後には正常に近い線維軟骨組織に置き換わることが報告されています。(Hashimoto J, et al. Am J Sports Med. 1992)(Port J, et al. Am J Sports Med. 1996)
12例の半月板横断裂に対して、半月板縫合にフィブリンクロットを併用した報告では、11例でcomplete healingを確認されており、フィブリンクロットの有用性が示されています。(Ra HJ, et al. Knee Surg Traumatol Arthrosc. 2013)
これだけ効果が示されていることと、臨床で使いやすい点が、フィブリンクロットが半月板損傷に対する生物学的アプローチとして現在最も行われている理由ですね。
よせやん
多血小板血漿(PRP)
多血小板血漿(Platelet Rich Plasma:PRP)は、血小板に富む自己結由来の物質で、α顆粒と高密度顆粒の両方から多種の成長因子を放出します。
PRPは、PDGF、血管内皮増殖因子(VEGF)、TGF-β、IGF-1、bFGF、肝細胞増殖因子(HGF)、およびEGFを含んでおり、半月板治癒や再生を促進する可能性があるとして期待されています。in vitro(細胞実験)およびin vivo(動物実験)の両方で、半月板組織再生に対するPRPの効果が報告されています。(Ishida K, et al. Tissue Eng. 2007)
in vitroの研究では、PRPは半月板細胞培養において、ビグリカンとデコリンのDNA合成、細胞外マトリクスの合成、mRNA発現を刺激することが報告されています。
ウサギ半月板の無血管領域の全層欠損に対して、ゼラチンヒドロゲルを用いてPRPを欠損部に移植したin vivoの研究では、術後12週の組織学的評価でPRP投与群はコントロール群と比較して良好な半月板修復を示したことが報告されています。
では、臨床ではどうなのでしょうか?
臨床研究の論文も紹介しておきます。
半月板単独損傷に対して半月板修復術を施行した26例について、PRP投与群11例と非投与15例を最低2年間フォローアップした際の臨床成績が報告されていますが、臨床スコア、スポーツ復帰率、および再手術率のいずれも2群間で差は認められていません。(Griffin JW, et al. Clin Orthop Relat Res. 2015)
違う研究では、バケツ柄断裂に対するPRPの効果を4例の患者が参加した無作為比較試験で検討して、術後18週でのセカンドルックによる半月板治癒の評価していますが、85% vs 47%でPRP投与群の方が治癒率が高かったことが報告されています。(29)
PRPは、現在さまざまな整形外科領域で用いられていますが、半月板損傷の治癒を促進するかどうかに関してはもっと多くの大規模な臨床研究が必要になってくると言えるでしょう。
よせやん
おわりに
以上、今回は半月板損傷に対するフィブリンクロットとPRPの効果についてお話ししました。
今回紹介したもの以外に、現在は骨髄血濃縮(BMAC)や 幹細胞、多血小板フィブリン(PRF)などがさらに新しい治療として基礎研究の分野で研究が進められています。
この後、半月板損傷に対しても新しく、より良い治療法が出てくることでしょう。
このように、医学の発展には基礎研究が必要であり、基礎研究から臨床応用へと繋がっていくのです。
これが、基礎研究の面白さであり、魅了的な点とも言えるでしょう。
僕も大学にいるからには、将来使われるようになるような治療法の開発に携わりたいなと思います。
よせやん
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