運動に伴う筋痙攣(足がつる、こむら返り等)の予防法は?辛い物で予防できる?!科学的に考察

どうも、こんにちは。
整形外科医のよせやんです。
よせやん
本日は整形外科の仕事を終えてから、救急医としてCOVID-19患者さんの診療に当たっていました。
というのも、最近コロナ患者がかなり増えてきており、それに伴って重症患者も増えてきてしまったから。
コロナは軽症で済むことが多いのは周知の事実ですが、ある一定数は重症化するので総数が増えれば重症患者が増えるのは自明の理です。
特に呼吸器系の基礎疾患がある方や肥満がある方は最近では若年者でも重症化するケースが増えてきていますね。
もうコロナ前の世界には戻れないでしょうが、せめてある程度普通の生活が送れる程度には戻って欲しいものです・・・。
さて、今日はまた運動に伴う筋痙攣についてお話ししようと思います。
運動に伴う筋痙攣とは、いわゆる”足がつる”とか”こむら返り”と言われるものですね。
昔から、脱水や電解質不足が原因で運動時に筋痙攣が起こると言われていますが、実は近年では中枢神経系に起因して運動ニューロンの興奮性増大が原因であるという科学的証拠が増えてきています。
この記事では、運動に伴う筋痙攣はどうすれば予防できるのか?科学的に考察していきます。
よせやん
Contents
筋痙攣とは
運動に伴う筋痙攣すなわち運動誘発性筋痙攣は、長時間の高強度運動時に起こることが多く、運動をしてきた方は経験したことがあるでしょう。
運動誘発性筋痙攣の原因を説明するために、2つの主要な説が提唱されています。
1つ目のよく知られている説は、筋痙攣は脱水や電解質の不均衡によって引き起こされているというものです。
2つ目は筋痙攣は中枢神経系に起因するもので、運動ニューロンの興奮性増大によって生じるという説です。
脱水や電解質の不均衡が筋痙攣の一般的な原因であるという考えを支持する科学的根拠は限られており、近年では中枢神経系に起因して運動ニューロンの興奮性増大が原因であるという科学的証拠が増えてきているということを今までにお話ししました。
この記事では、運動に伴う筋痙攣はどうすれば予防できるのか?科学的に考えてみようと思います。
よせやん
過去に提唱されてきた予防法
筋痙攣を予防するための予防法として、過去に提案されてきたものには、
- 食塩を含む鉄剤
- バナナ
- ピクルスジュース
- スポーツドリンク
の摂取などがあります。
これはナトリウムやカリウムなどの電解質を補充して不均衡を是正するという考え方なのだと思います。
では、これらは科学的に運動誘発性筋痙攣の予防に有用なのでしょうか?
残念ながら、これらの予防法はいずれも一貫して運動誘発性筋痙攣を予防できる効果があることは科学的に証明されていません。
また、運動前や運動時に水をしっかり摂ることで予防できるという考えもよく目にします。
こちらは予防法として科学的にどうなのでしょうか?
筋痙攣を起こしたアスリートと筋痙攣を起こしていないアスリートを比較した研究で
- 血中の電解質濃度に有意な差がなかった。
- 飲料摂取量に有意な差はなかった。
ということが報告されています。
ただし、暑熱環境での長時間の運動などの極端な運動条件では、電解質の不均衡によって筋痙攣が生じるというのは事実なので、最低限の水分や電解質の摂取をすることは大切であるというのが間違っているというわけではありません/keikou]。
ここまでの話をまとめると、
最低限の水分や電解質の摂取をすることは大切だが、それによって筋痙攣を予防する科学的証拠はない
ということになります。
辛い飲み物が筋痙攣を予防する?
では、筋痙攣を予防策はまったくないのでしょうか?
実は、[keikou]最近の研究により、筋痙攣の予防が実現するという希望が持てるようになってきているのです。
ノーベル科学賞受賞者であるロックフェラー大学のRoderick Mackinnon教授とハーバード大学医学大学院のBruce Bean教授は、筋痙攣は筋自体に原因があるのではなく、筋収縮を制御する脊髄運動ニューロンの過剰発火を促進する中枢神経系のメカニズムによって起こるのだろうと考えました。
では、どうすれば運動ニューロンの過剰発火を防げるのか?と考え、強力な抑制性刺激を脊髄に送ることによって運動ニューロンの過剰発火を抑制すれば、筋痙攣を予防できる、さらに運動ニューロンの発火抑制は口や咽喉にある感覚神経を刺激することで実現できると仮説を立てました。
重要なことはこれらの感覚神経は脊髄に投射しており、過剰興奮した運動ニューロンを抑制するということです。
実は、口と脊髄の接続はそれほど不自然なものではなく、氷を食べると頭痛が生じるということはよく知られています。
この痛みの感覚は、口内の上顎にある神経塊が急速に冷やされることで生じているのです。
同様の理由で、ある種のスパイスや生姜・唐辛子に含まれるカプサイシンなどの天然成分を摂取すると、感覚神経に存在する一過性受容器電位(TPR)チャネルと呼ばれるイオンチャネルが活性化されます。
その結果、抑制性信号を脊髄に送る神経のスイッチが入り、筋痙攣の原因となる運動ニューロンの過剰発火が抑制されるのです。
この天然香辛料の経口摂取によって筋痙攣を予防できるという仮説を検証するため、Mackinnonらはボランティア被験者に対して実験を行なっています。
この実験では、香辛料の摂取によって口や咽喉のTPRチャネルが活性化され、運動ニューロンの過剰発火を防ぐための抑制性信号が脊髄に送られることが確認されました。
また、辛い飲み物を運動前に摂取すると、運動誘発性筋痙攣の頻度と持続時間が減少することが明らかになりました。(Short, et al. Neurology. 2015)
これが即、実際のスポーツ活動に活かせるわけではもちろんないのですが、運動誘発性筋痙攣を予防するための科学的な手段に近づきつつあると言えるでしょう。
よせやん
運動に伴う筋痙攣のまとめ
運動に伴う筋痙攣の原因については、まだ1つに特定されているわけではなく、依然として議論の的であるのは事実です。
しかし、近年では運動誘発性筋痙攣は脊髄運動ニューロンの過剰発火の結果であることを示す証拠が増えてきています。
運動に伴う筋痙攣の予防についてまとめておきます。
- 最低限の水分や電解質の摂取をすることは大切だが、それによって筋痙攣を予防できるという科学的証拠はない。
- 最近では科学的解析が進んでおり、現時点では辛いものを運動前に摂取すると、運動誘発性筋痙攣の頻度と持続時間が減少することはわかっている。
今後、さらに研究が進み、運動誘発性筋痙攣が予防できるようになる日も遠くないのかもしれませんね。
よせやん
参考図書
今回の記事は、パワーズ運動生理学を参考図書としています。
この教科書は、運動生理学の基礎を押さえつつも常に最新の研究成果を反映した進化し続けるテキストブックとして、現在では世界5か国語に翻訳がなされて利用されています。
そして、単に生理学の専門的知識を学べるではなく、なぜ運動生理学を学ぶ必要があるのか、そしてその知識をどのように活かすのか、についてまで実際のスポーツに即して書かれていて非常に面白い内容となっています。
スポーツに関わる方は運動生理学を知っていると、かなり活かすことができるのでよかったら読んでみてくださいね。
このブログでも、実際に活かせそうな運動生理学をこれからも紹介していきます。
よせやん
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