肉離れのスポーツ復帰|復帰時期の目安と復帰を遅らせるマイナス因子
どうも、こんにちは。
若手整形外科医のよせやんです。
今日は午前中、外来のバイトに行ってきて、夕方からは関連病院での輪番当直があります。
輪番制とは、各市や郡単位の地域ごとに休日や夜間に対応できる病院が、日にちを決めて順番に対応する制度のことを言います。
つまり、その日のその地域の救急患者さんは基本的にこの輪番病院にすべて搬送されることになります。
この地域の人がみんな無理せず、救急搬送されてこないことを願います。
さて、今日は肉離れからのスポーツ復帰についてです。
怪我からのスポーツ復帰。
これはスポーツ医学における重要なテーマのひとつです。
当然のことながら選手はできるだけ早期に復帰することを望んでいます。
しかし、復帰したのはいいものの、すぐに再発してしまっては意味がありません。
焦った復帰は、場合によってはさらに最終的な復帰を遅らせる結果にも繋がります。
医療者は選手が復帰して再発することがないように復帰させる必要があります。
そのため、一般的には少し長めに安静期間を設けることが多いと思います。
しかしながら、スポーツ医学を専攻し、スポーツドクターを名乗るからには、
再発はさせずにできるだけ早期に復帰させることを目標にすべきです。
よせやん
そのためには、スポーツ傷害について勉強するだけでなく、リハビリテーションや復帰に関しても勉強していくしかありません。
特に肉離れは再発が多く、「クセになりやすい」疾患であると言われています。
しかし、それには原因があり、再発させないように対策することは可能です。
というわけで、この記事で肉離れのタイプ別のスポーツ復帰時期の目安と復帰を遅らせるマイナス因子について理解しておきましょう。
Contents
肉離れからのスポーツ復帰時期の目安
まず、肉離れからのスポーツ復帰時期の目安を確認しておきましょう。
前回勉強した「奥脇の分類」がスポーツ復帰の目安となります。
まだ覚えていない人は先にそちらを確認してください。
奥脇の分類における、肉離れのスポーツ復帰までの期間は以下のようになっています。
- Ⅰ型:1〜2週
- Ⅱ型:1〜3ヶ月(平均6週)
- Ⅲ型:手術による修復を検討
前回、述べたようにⅢ型は数%と稀であり、肉離れの多くはⅠ型とⅡ型になります。
ですので、Ⅰ型とⅡ型をしっかりと鑑別することが重要です。
また、これを見ると、Ⅰ型とⅡ型で明らかな差があることがわかります。
Ⅰ型とⅡ型の違い
では、Ⅰ型とⅡ型にこれほどの差があるのはなぜなのでしょうか?
前回紹介した、肉離れの病態を再確認しましょう。
Ⅰ型は筋腱移行部の血管(筋組織)損傷のみであり、Ⅱ型は筋腱移行部(特に腱膜)に損傷がおよぶものを言うのでした。
今までの研究で、
筋腱移行部(特に腱膜)に損傷があると復帰までに長期間を要する。( Askling C, et al. The American Journal of Sports Medicine. 2007 )
ことが知られており、
ちなみに腱膜とは、下図左に示した筋中央の白い部分のことを言います。
MRIで見ると、下図右のように綺麗に追うことができます(←)。
では、なぜ腱膜の損傷の有無がスポーツ復帰までの期間に大きな影響を与えるのでしょうか?
筋線維は損傷すると、12時間後には再生が始まり、72時間後には再生線維が形成され、1週間後には損傷前の筋線維の直径の1/2まで増大し、1ヶ月以内には再生が完了すると言われています。
一方、腱は血管新生に乏しいため、修復が他の結合組織と比較して相対的に遅く、損傷後数日間の炎症期、数週間の増殖期、数ヶ月間の成熟期を経て、数年かけて損傷組織が非損傷組織の機能的な強度に近づいていくと言われています。
したがって、腱膜の損傷は腱損傷に類似するため、Ⅱ型のスポーツ復帰までの期間が有意に長くなるのだと考えることができます。
これを早めようという新しい治療がPRPなどの自己血液製剤などですね。
Ⅰ型のスポーツ復帰を遅らせる因子
では、Ⅰ型であればすべて同じなのでしょうか?
当然、そんなわけはありません。
というわけで、同じⅠ型の中で、スポーツ復帰を遅らせるマイナス因子には何があるのか考えてみましょう。
結論から言うと、
Ⅰ型では高信号領域の大きさがスポーツ復帰を遅らせるマイナス因子になります。( 山元勇樹ら.日本臨床スポーツ医学会誌. 2011 )
脂肪抑制T2強調画像,STIR像における高信号領域は、出血や血腫を反映しており、つまりは血腫の有無や出血範囲の大きさが影響するわけです。
図:奥脇の分類Ⅰ型損傷のMRI画像 筋腱移行部に沿った出血を認める
Ⅱ型のスポーツ復帰を遅らせる因子
では、Ⅱ型ではどうでしょうか。
Ⅱ型においても、Ⅰ型と同じく血腫の有無や出血範囲の大きさがスポーツ復帰を遅らせるマイナス因子となるのでしょうか?
実は、Ⅱ型においては血腫の有無や出血範囲の大きさは、スポーツ復帰を遅らせるマイナス因子にはなりません。
Ⅱ型では腱膜の途絶部の長さがスポーツ復帰を遅らせるマイナス因子になります。( 山元勇樹ら.日本臨床スポーツ医学会誌. 2011 )
これは、先ほどの腱膜の修復には期間を要することから考えれば、腱膜の損傷が大きい程、スポーツ復帰が遅くなるマイナス因子となることは比較的わかりやすいのではないでしょうか。
図:奥脇の分類Ⅱ型損傷のMRI画像 右側では腱膜が途絶し確認できない
おわりに
今日は、肉離れのスポーツ復帰について、タイプ別のスポーツ復帰時期の目安と復帰を遅らせるマイナス因子についてお話ししました。
Ⅰ型とⅡ型の差、そして同じタイプ中でのスポーツ復帰に対するマイナス因子を理解しておくと、選手をどのようにスポーツ復帰させるかが見えてくるでしょう。
よせやん
逆に、Ⅱ型をⅠ型として早期にスポーツ復帰させたら、再損傷するのは当たり前とさえ思えるかもしれません。
というわけで、次回いよいよ「肉離れを再発させずに、できるだけ早くスポーツ復帰させるためにはどうしたらいいのか」という点に着目して、肉離れのスポーツ復帰までの流れをまとめる予定です。
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