膝前十字靭帯(ACL)損傷後に、再建術を行う時期はいつがよいか?
どうも、こんにちは。
整形外科医のよせやんです。
よせやん
ゴールデンウィークもあっという間に終わってしまいますね。
明日からまた通常業務ですが、頑張っていこうと思います。
さて、今日は前回に引き続き膝前十字靭帯(ACL)損傷についてやっていきましょう。
今までACLについてまとめた記事の一部を紹介しておきますので、興味のある方はこちらもどうぞ。
▲膝前十字靱帯(ACL)損傷の受傷メカニズム|膝関節と股関節別に解説
▲前十字靱帯(ACL)損傷後、再建手術をしないで放置するとどんな経過を辿るのか?
▲膝前十字靭帯(ACL)損傷の徒手検査(前方引き出しテスト、Lachman test、pivot shift test)のやり方と有用性
▲膝前十字靭帯(ACL)損傷に関節軟骨損傷が合併する影響は?ACL再建時に同時に治療を行うべき?
ACLについてもまたそのうちまとめ記事を作りますね。
今回はACL再建術の時期はいつがよいかについてまとめていきます。
ACL損傷には、MCLやPCLといった他の靭帯損傷だけでなく、半月板損傷や関節軟骨損傷などを合併することが少なくありませんので、それらの合併症に対する知識を持っておくことも大切です。
そして、これらの合併症や膝不安定性、スポーツ復帰率などから考えるといつがいいのでしょうか。
今回はACL損傷を受傷後、どれくらいの時期に再建術を行うべきなのか考えてみようと思います。
よせやん
Contents
ACL損傷を放置するとどうなるのか
ACL損傷を放置するとどうなるのかについては、以前こちらの記事でまとめました。
この記事を要約すると、
受傷から再建術までの待機期間が長い場合、関節軟骨損傷、半月板損傷の頻度が増加するということになります。
待機期間が長くなると関節軟骨損傷、半月板損傷の頻度が増加するのでよくないことはわかるかと思いますが、ではどれくらいの待機期間でACL再建術を行うのがいいのでしょうか。
よせやん
ACL再建術を行う条件としては、
患側の膝可動域が、健側と同程度まで改善していることが最低条件となります。
患者さんにもよりますが臨床をしていると、2〜3週間で可動域は改善し、ACLサポーターを装着していれば日常生活に支障がないケースが多いように感じます。
半月板損傷の合併から考えると
というわけで、ACL損傷後に再建術を行う時期はいつがいいのか考えていきましょう。
よせやん
まず一般的に、陳旧性のACL損傷では半月板損傷の合併が高頻度に見られることが知られています。
文献的にはどうでしょうか。
ACL損傷における半月板損傷合併例1,375例で検討した観察研究では、半月板損傷の発生リスクは受傷後2週以内と比べると受傷後26週から有意に高まり、男性では半月板損傷の合併が女性より有意に多く、活動性は半月板損傷合併に有意な影響は与えなかったことが報告されています。(O’Connor DP, et al. Arthroscopy. 2005)
僕の臨床経験からは、ACL損傷後に活動性が高い方が半月板損傷、軟骨損傷の頻度が高まる印象ですが、長期間ではなくこの研究のように短期間〜中期間では有意差が出ないという可能性はありますね。
また、受傷後3ヶ月以内にACL再建術を行った群は、陳旧例あるいは受傷後長期間待機してACL再建術を行った群よりも、有意に半月板損傷の合併が少なかったというメタアナリシスもあります。
内側・外側半月板について別々に検討している文献でも紹介しておきます。
内側半月板については、受傷後3週間以内にACL再建を行った群は受傷後長期間待機してからACL再建術を行った群よりも有意に内側半月板損傷の合併が少なかったことが報告されています。
一方、外側半月板については、受傷後3ヶ月以内にACL再建術を行なった群の方がやや少ない傾向にはあるものの、待機手術群との間に有意差は認められていません。
これをまとめると、
半月板損傷のリスクは受傷後3〜6週ほどから高まり、特に内側半月板損傷の合併に注意が必要である
ということになります。
関節軟骨損傷の合併から考えると
では、関節軟骨損傷の合併から考えるとどうでしょうか。
ACL損傷後、再建術までの期間が長いと関節軟骨損傷を生じるという報告も多数存在するのは上の関連記事で紹介した通りです。
関節軟骨損傷の有無と受傷から手術までの期間を調査した観察研究では、関節軟骨損傷なし群の受傷から手術までの期間が平均17.4ヶ月であるのに対し、関節軟骨損傷あり群では平均37ヶ月と有意に長く、また受傷から手術までの期間が長いと関節軟骨損傷の重症度も悪化していたことが報告されています。(Maffuli N, et al. Arthroscopy. 2003)
つまり、
関節軟骨損傷のリスクは受傷後経過時間が長くなるほど高まり、重症度も悪化する可能性が高い
ということになります。
その他の項目では
最後に、膝安定性やスポーツ復帰、活動性についても検討しておきましょう。
ACL再建後の膝安定性に関する観察研究では、新鮮群(早期手術群)と陳旧群(待機手術群)との間に有意差は認められていません。(Karlsson J, et al. Knee Surg Sports Traumatol Arthrosc. 1999)
また、ACL再建術後のスポーツ復帰に関する観察研究でも、ACL再建術が3ヶ月以内に(平均6週間)行われた新鮮群と、3ヶ月以上(平均54ヶ月)で行われた陳旧群で比較し、最終調査時のスポーツ復帰率は新鮮群で83%、陳旧群で86%で有意差は認めていません。(Noyes FR, et al. Am J Sports Med. 1997)
しかし、ACL再建術後の活動性についての観察研究では、受傷後2〜12週でACL再建術を受けた群は、受傷後12〜24週で手術を受けた陳旧群と比較して、Tegner activity scoreが高かったことが報告されています。
これらをまとめると、
ACL損傷受傷後、待機時間があってからACL再建術を行なっても、膝安定性・スポーツ復帰率に有意差はないが、活動性は低くなる可能性がある
ということになります。
ACL再建術で靭帯自体はしっかりと再建するわけですから、膝安定性に有意差が出ないことは想像に難くないですね。
また、スポーツ復帰率にも差は出ていないとのことですが、再建時に関節軟骨損傷があるとスポーツ復帰率が低下することは前回お話しした通りなので、関節軟骨損傷の発生リスクを考えるとあまり先延ばしにするのは得策ではないということになるでしょう。
ACL再建術はどの時期に行うべきか
では、結局ACL再建術は受傷後どれくらいの時期に行うのがベストなのでしょうか。
上で紹介したメタアナリシスやシステマティックレビューから考えると、ACL再建術は受傷後3〜6ヶ月以内に行うことが推奨されるということになるでしょう。
これに、ACL再建術を行う条件も合わせて考えると、
ACL再建術は受傷後、可動域が健側と同程度まで改善したら受傷後3〜6ヶ月以内に行うべき
であるということになるかと思います。
学生さんは学校の関係で夏休みや冬休みなどの長期休みに手術を行うことが多いですが、あまり先延ばしにはし過ぎない方がいいということは医療者は伝えた方がいいでしょう。
ただし、活動性が高く(元のレベルでスポーツをする等)なければ、半月板損傷や関節軟骨損傷が生じるリスクは低下させることができるとは思うので、そこら辺も合わせて考える必要があるとは思います。
参考図書
2019年に発売されたACL損傷の診療ガイドラインです。
ガイドラインシリーズは非常に勉強になりますよ。
よせやん
おわりに
以上、今回はACL再建時は受傷後どれくらいの時期に行うべきかについてまとめました。
今までACLについてまとめた記事の一部を紹介しておきますので、興味のある方はこちらもどうぞ。
▲膝前十字靱帯(ACL)損傷の受傷メカニズム|膝関節と股関節別に解説
▲前十字靱帯(ACL)損傷後、再建手術をしないで放置するとどんな経過を辿るのか?
▲膝前十字靭帯(ACL)損傷の徒手検査(前方引き出しテスト、Lachman test、pivot shift test)のやり方と有用性
▲膝前十字靭帯(ACL)損傷に関節軟骨損傷が合併する影響は?ACL再建時に同時に治療を行うべき?
ACLについても足らない記事を作ってしまって、そのうちまとめ記事を作りますね。
よせやん
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