THA(人工股関節全置換術)とFHR/BHA(人工骨頭置換術)の作図方法
どうも、こんにちは。
若手整形外科医のよせやんです。
年度末で予想以上にやらなきゃいけないことが山積みになっていて、なかなかブログを更新する時間がありません。
気付けば2日間も空いてしまいました。
今は外来の合間で、今日は仕事が終わったらすぐに大学病院の歓送迎会があります。
ということで、今の間に更新してしまいます。
以前、TKA(人工膝関節全置換術)の作図に関しての記事を書きましたが、今回はTHA(人工股関節全置換術)の作図に関して書いていきます。
また、この記事で紹介する作図方法はBHA(人工骨頭置換術)の作図でも応用できます。
Contents
はじめに
人工股関節全置換術(Total Hip Arthroplasty:THA)は、変形性股関節症、特発性・外傷性大腿骨頭壊死症、関節リウマチなどさまざまな疾患に対して施行されますが、わが国でのTHAの原因疾患として頻度が極めて高いのは変形性股関節症です。
図1:THA術後のレントゲン写真
THAを行う際には、作図を含めた術前計画が極めて重要です。
よせやん
近年では、CTデータに基づいた三次元テンプレーティングの有用性が多数報告されるようになってきましたが、昔から一般的に行われてきたX線画像を用いた二次元テンプレーティングによる作図の方法を今回は紹介します。
二次元テンプレーティングには、従来の110%に拡大したX線フィルムをトレーシングペーパーに書き写して行う方法と、二次元デジタルX線画像を用いたデジタルテンプレーティングとがありますが、作図の進め方は基本的には同じです。
今回は、二次元デジタルX線画像を用いたTHAの作図方法を紹介します。
特に、若手の先生は大腿骨頚部骨折の患者さんに対して、BHAを施行する機会が多いと思いますので、作図はしっかりとできるようになっておきましょう。
僕も、研修医のときに何例もBHAを執刀させて頂く機会があったので、そのときに作図の方法もしっかりと勉強しました。
THAの術前計画
まず、作図を行う前にやるべきことがいくつかあります。
手術の際の参考のために、脚長差、大腿骨の前捻角を確認しておきましょう。
つまり、大腿骨頚部は大腿骨顆部に対して10〜15°前に捻れているわけですね。
図2の場合、前捻角は19+33=52°であり、かなり前捻が強い症例ですね。
図2:大腿骨前捻角のCTでの計測
また、THAの場合は、カップサイズの計測も事前に計測しておきましょう。
CT画像で原臼位の位置で寛骨臼縁に適合するサイズを計測します(図3)。反対側が正常もしくは変形が少ない症例の場合は、反対側で計測しましょう。
図3:CT画像でのカップサイズの計測
THAの作図
では、本題のTHAの作図の方法を見ていきましょう。
まず、既知の大きさのキャリブレーションマーカーを用いて拡大率補正を行います。
キャリブレーションマーカーは大転子の高さに合わせて、外側の皮膚に接するように設置すると1番股関節部の拡大率との誤差が少ないと報告されています。( Bane CO, et al. J Arthroplasty. 2009 )
単純X線を撮影するときに、整形計測用の銀玉が用いられることが多いかと思います。
フィルムで作図を行う場合は、銀玉の直径を測って拡大率正しいか、正しくなければどれくらいズレているのかを確認します。
この拡大率にズレがあると、当たり前ですが実際のサイズもそれだけズレることになるのが意外に大事なプロセスです。
よせやん
そして最初に、術前の脚長差を計測しておきます(図4)。
脚長計測の基準としては、骨盤側は涙痕下縁を結んだ線あるいは坐骨結節間を結んだ線、大腿骨側は小転子あるいは大転子を基準として、小転子頂部や大転子頂部までの距離で評価します。
図4は骨盤側は坐骨結節間を結んだ線、大腿骨側は小転子を基準にしています。
図4:術前の脚長差の計測
準備ができたら、さっそくカップを設置します。
予めCTで計測しておいたサイズのカップを選択し、選択位置は原臼位設置を原則にします。
両側の涙痕下縁を結んだ線上で、内板に接するくらいの位置を目安に設置するとよいでしょう(図5)。
骨被覆の基準としては、カップ中心を通る垂線とカップ中心とカップ骨被覆部の外側縁を結ぶ角度をCup center-edge angle(Cup CE角)といいますが、CE角が10°を超えるように設置します。
ちなみに、骨被覆が十分でない場合は、2cmまでの高位設置は外側設置でないという条件でなら許容してもよいと言われています。( Takao M, et al. J Arthroplasty. 2011 )
この過程はBHAの場合、この過程は必要ありませんが、Headサイズを決定する必要があります。
骨頭にテンプレートを当て、そのサイズのものを選択します。
大腿骨頚部骨折で骨頭が見にくい場合は、健側で計測してもOKです。
よせやん
図5:カップの設置
続いて、大腿骨頚部の骨切りを行い、ステムを設置します。
大腿骨頚部の骨切りは目安は小転子の立ち上がりより15mm(術中は小転子の立ち上がりより1横指を基準としている先生が多い気がします)です。まず、この位置で骨切りを行いステムを設置してみましょう(図6)。
ステムは遠位固定型のものを使うか、近位固定型のものを使うかで多少の違いはありますが、固定したい位置で皮質骨にしっかりとかみ込むサイズを選択します。
近位固定型のステムなのに遠位で評価していたり、遠位固定型のステムなのに近位で評価している先生を見かけることがあります。
また、アナトミックステムの場合は、頚部骨切りレベルから小転子レベルまでの近位髓腔とのFit&Fillが最大となるサイズを選択し、テーパーステムの場合は小転子レベル以下の髓腔のテーパー形状と適合性でサイズを決定します。
図6の場合は、近位設置型のテーパステムを使用しています。
図6:小転子の立ち上がりより15mmで骨切りし、ステムを設置
ここまで終わったら、カップとステムを整復し、反対側の大腿骨と内外転の角度を揃えて、脚長差を計測してみましょう。
フィルムと紙で作図をする場合は、大腿骨のみ切り離して整復するといいと思います。
図6の作図では、このままだと右脚が左脚より12mm長くなってしまいます。
脚長差が大きい場合は脚長補正を行う必要があります。
脚長補正は、骨切りを多くするか、オフセットを変更するか、ステムのサイズを変更することで行います。今回は、骨切りラインを小転子立ち上がりより10mmとし、ステムのネックを−3mmのものを選択することで調整しました(図7)。
これで脚長差も補正できれば、作図は完了です。
図7:THA作図 完成版
僕はこのように作図していますが、先に骨切りラインを決めてから後に脚長差の補正を行うのではなく、まず脚長差のない位置にHeadとステムを設置して、それに合わせて骨切りラインを決める先生もいるかと思います。
別にどちらでも問題ありませんが、自分の中の順序を決めてルーチン化しておくとよいでしょう。
よせやん
まとめ
- 大腿骨前捻角、カップサイズをCTで測定
- 整形用銀玉で拡大率を確認
- 術前脚長差を計測
- カップを原臼位に設置
- 大腿骨骨切りラインの決定
- ステム設置
・アナトミックステム:頚部骨切りレベル〜小転子レベルまでの近位髄腔とのFit&Fillが最大となるサイズ
・テーパーステム:小転子レベル以下の髄腔のテーパー形状と適合性でサイズ決定 - カップとステムを整復し、脚長差確認
- 脚長差があれば補正
- 大腿骨前捻角をCTで測定(CTあれば)
- 整形用銀玉で拡大率を確認
- 術前脚長差を計測
- Headサイズを決定
- 大腿骨骨切りラインの決定
- ステム設置
・アナトミックステム:頚部骨切りレベル〜小転子レベルまでの近位髄腔とのFit&Fillが最大となるサイズ
・テーパーステム:小転子レベル以下の髄腔のテーパー形状と適合性でサイズ決定 - Headとステムを整復し、脚長差確認
- 脚長差があれば補正
参考図書
人工股関節に関しても多くの本がありますが、僕はこの本をおすすめします。
シンプルなのにも関わらず、必要なことはしっかりと、そして最新の話題にまで触れられています。
おわりに
以上、この記事ではTHAの作図方法を解説しました。
術前計画を十分に行うことは、THAの成功の鍵となります。
ちなみに、図7の作図を行った症例は、実際の手術でもカップもステムも作図と完全に一致したサイズが選択されました。
この1年を通して、自分でする作図の制度もかなり上昇していて、作図と実際に使われるインプラントのサイズがそこまで違うことは少なくなりました。
術前計画は整形外科の基礎ですので、若手のうちはしっかりとやるようにしましょう。
今回の記事が参考になれば幸いです。
よせやん
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