半月板損傷が治癒するメカニズムとは|現在研究されている新規治療法についても紹介!
どうも、こんにちは。
整形外科医のよせやんです。
よせやん
今日は夕方まで仕事をしていました。
途中まで今日が祝日であることを全く知りませんでした。
医療職は怖いですね。
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さて、今日は昨日の続きで半月板について勉強していきましょう。
今回は半月板損傷治癒のメカニズムについてお話しします。
血流のない組織である半月板は自然治癒しにくいことが知られていますが、どのような条件が揃えば治癒するのでしょうか。
また、そのメカニズムを元に最近研究されている半月板損傷に対する新規治療法にどんなものがあるかも紹介します。
Contents
半月板損傷治癒のメカニズム
半月板の基礎医学については昨日お話をしました。
半月板の内縁から2/3は血行がないためwhite-white zoneと呼ばれ、この部位を損傷すると自然治癒はしにくいことが知られています。
また、滑膜組織は血流を有しており、半月板の大腿骨面および脛骨面の両方の末梢付着部を覆っているということは、今度説明する半月板の修復と再生に大いに関わってくるところになります。
では、本題の半月板が損傷した場合に治癒するメカニズムについてお話しましょう。
血行がある組織が治癒するのはわかるでしょうから、このwhite-white zoneの半月板が治癒するメカニズムについて説明します。
よせやん
半月板損傷部への滑膜組織の誘導
実はこのwhite-white zoneの損傷であっても、自然に治癒する症例を見ることがあります。
このような場合には、半月板損傷部に近い部位の滑膜から半月板損傷部に滑膜組織が誘導される現象を認めるのです。(Zhang Z, et al. J Orthop Res 2011)
これは、実は1936年にKingが「断裂した半月板は結合組織によって治癒しうる。その断裂部が滑膜と繋がるのであれば。」と報告しています。
その時代によくそんなことを報告できましたよね。
というわけで、
半月板が修復されるには、周囲の滑膜組織が半月板損傷部に誘導されることが重要
ということが言えます。
無血行野の半月板領域であっても、滑膜組織が誘導されると同時に血流が生じ、半月板損傷部位に細胞が多数動員され、修復が加速するわけです。
よせやん
滑膜幹細胞
間葉形幹細胞とは、間葉形組織由来でコロニー形成能と多分化能を有する細胞集団のことを言います。
胚性幹細胞(ES細胞)や人工多能性幹細胞(iPS細胞)と比較して、間葉系幹細胞はすべての組織に分化する能力には劣りますが、調整が容易であり、安全性が高いため、再生医療の細胞源として有用です。
滑膜幹細胞は間葉系幹細胞の一つですが、これは関節内の組織が損傷した際に滑膜から関節液中に動員されます。(Katagiri K, et al. Arthroscopy 2017)
ですので、正常膝関節の関節液中にはほとんど認めませんが、半月板損傷後に増加することが知られています。(Matsukura Y, et al. Clin Orthop Relat Res 2014)
同様に、ACL損傷膝や変形性膝関節症の関節液中にも正常膝と比較して多くの滑膜幹細胞が存在します。(Morita T, et al. Rheumatology 2008)(Sekiya I, et al. J Orthop Res 2012)
滑膜幹細胞は、関節内に留まり他の組織に移動するような現象は認めず、損傷部位に生着して直接半月板細胞に分化して半月板を再生させます。
また、滑膜幹細胞は損傷部位に生着後、周囲の滑膜組織の半月板損傷部への誘導も促します。
このように、滑膜幹細胞は半月板損傷の自然修復に寄与していると思われますが、関節液中に動員される幹細胞数の絶対数には限界があルため、自然修復にも限界があると考えれられます。
よせやん
フィブリンクロット
フィブリンとは、出血に反応して生産されるタンパク質で血液凝固に重要な役割を果たしており、フィブリンクロットとは、血液が凝固して形成される凝結塊のことを言います。
フィブリンクロットには多くの血小板や種々の成長因子が含まれており、半月板損傷部への細胞誘導や細胞増殖を促進します。
また、フィブリンクロットは半月板損傷部の露出されたコラーゲンに付着し、線維性結合組織の増殖を誘導し、線維軟骨への分化を促進します。(Hashimoto J, et al. Am J Sports Med 1992)(Port J, et al. Am J Sports Med 1996)
こういう理由で、今は半月板縫合の際にフィブリンクロットを併用することが一般的になっています。
フィブリンクロットが血液を採取して撹拌するだけで作成できるので、汎用性が高いことも理由の一つでしょう。
また、フィブリンクロットは医療者が作成しなくても出血の量が多いと自然に形成されます。
ですので、ACL損傷後の半月板損傷は自然治癒したり、ACL再建時の半月板縫合はフィブリンクロットを使わなくても治癒しやすい(骨孔を開けるため骨髄からの出血が多いから)わけですね。
よせやん
半月板損傷治癒のメカニズムと新規治療法の開発
以上のことをまとめると、半月板損傷が治癒するために必要なこと(もの)が見えてきます。
- 滑膜幹細胞
- 滑膜組織の損傷部への誘導
- 種々の成長因子
これが半月板損傷の治癒におけるキーになってくるわけです。
そして、上述したように現在フィブリンクロットを用いた半月板縫合術が一般的となっていますが、それで半月板損傷がすべて治癒するかというと全然そんなことはなく、新たな治療法の開発が望まれているのです。
こういう背景を知っていると、今研究が行われているものもかなり理解しやすくなります。
少しだけ紹介しておきます。
- 滑膜幹細胞移植
- 未分化幹細胞移植
- 多血小板血漿(PRP)
- 骨髄血濃縮(BMAC)
ここら辺はまさに上の内容を理解していれば、半月板の修復が促進されそうなことはわかるかと思います。
また、これらとは別に半月板の新規治療として研究されているものもあります。
- 同種半月板移植
- 自家腱移植
- 人工半月板
これらは少し発想が違って、壊れた半月板を修復するという考え方ではなく、半月板の代わりになるものと使うという発想ですね。
いずれにせよ、近年は半月板には非常に重要な機能があるため、極力温存すべきであるという「Save the meniscus」という考え方が広く浸透してきました。
これからの医学の発展し、半月板損傷がしっかりと治療できる未来が楽しみですね。
よせやん
参考図書
半月板について学ぶならばこの本がオススメです。
かなり詳しい本で、僕も基礎研究について何か調べる時にもよく使っています。
完全に半月板のみにフォーカスが当てられた教科書です。
解剖、疫学から病態,、治療まで、 半月板のすべてについて網羅されています。治療については、手術、リハビリ、再生治療まで完全にカバーされています。
膝関節外科やスポーツ整形外科の医師ならヨダレものの1冊だと思います。
よせやん
おわりに
以上、今回は半月板損傷治癒のメカニズムと新規治療法についてお話ししました。
どうでしたか?
基礎だけを知ってもあまり面白くはないかもしれませんが、臨床とどう関わっているのかを知ると一気に楽しくなってくると思います。
普段、診断したり治療しているのに、実は細かいことは全然知らなかったという方も少なくないのではないでしょうか。
僕は臨床家かつ研究家として働いている(もちろんスポーツドクターとしても)ので、今後自分のやっていく研究でこういうスポーツ医療の発展にも貢献していけたらと思っています。
よせやん
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